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リスキリングとは?メリットや実施ステップ、注意点などを事例を交えて解説!
リスキリングとは、社会変化などに応じて、今後求められる知識やスキルを新たに学んでいく取り組みを指します。変化の激しいビジネス環境において競争力を維持するためには、リスキリングによって従業員の知識やスキルをアップデートしていくことが重要です。
2020年に開催されたダボス(世界経済)会議で、2030年までに全世界で10億人規模のリスキリングを行う旨が発表されたり、日本においても政府が掲げる「新しい資本主義」の実現に向けて、個人のリスキリング支援に5年間で1兆円を投じる方針が示されており、DXや働き方改革、人材不足を国による大規模な投資などを背景に、リスキリングは大きな注目を集めています。
本記事では、リスキリングの定義や注目されている理由、メリット・デメリット、実施ステップ、注意点などを事例を交えて解説します。
1. リスキリングとは
はじめに、リスキリングの概要や注目されている理由、リカレント教育・生涯学習との違いについて解説します。
リスキリングの概要
リスキリング(Reskilling)とは、社会や技術の変化に応じて新たな知識やスキルを学んでいく取り組みです。経済産業省では、リスキリングを以下のように定義しています。
「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」
出典:経済産業省「リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―」
人生100年時代と言われる現代において、リスキリングは企業・個人ともに重要な取り組みとなっています。
2.リカレント教育・リカレント教育・生涯学習との違い
類似した概念として、リカレント教育や生涯学習があります。
リスキリングとリカレント教育との違い
リスキリングに似た用語としてリカレント教育があります。両者の主な違いは以下のとおりです。
- リカレント教育:個人の意思で職場から離れて大学などで新しい知識・スキルを学ぶ
- リスキリング:現在の仕事を行いながら、今後必要となる知識・スキルを学んでいく
一旦職場から離れて学び直すリカレント教育とは異なり、仕事を続けながら新たな知識・スキルを学んでいくことがリスキリングの特徴です。
リスキリングと生涯学習との違い
リカレント教育のほかに、生涯学習という用語もよく使われます。リスキリングと生涯学習の主な違いは以下のとおりです。
- 生涯学習:仕事・キャリアに限らず、スポーツや趣味など幅広い分野を対象に学んでいく
- リスキリング:仕事・キャリアの分野で今後必要となる知識・スキルを学んでいく
生涯学習ではスポーツや趣味なども含めて幅広い分野を学ぶ一方、リスキリングの学習対象は仕事・キャリアに関する分野です。
リスキリングとリカレント教育、生涯学習の違いをまとめると下表のようになります。
リスキリング | リカレント教育 | 生涯学習 | |
---|---|---|---|
学習分野 | 仕事・キャリア | 仕事・キャリア | 仕事・キャリア以外も含めたさまざまな分野 |
主導 | 企業 | 個人 | 個人 |
現職との関係性 | 現在の仕事を続けながら学び直す | 職場から離れて大学などで学び直す | 在職・離職問わない |
3.リスキリングが注目されている理由
ビジネス・産業構造の変化(IT・予算の増減)
新型コロナウイルスの流行をきっかけに、テレワークへの移行や業務のデジタル化がこの2~3年で急速に進んでいます。また、多くの業種・職種でデジタルデータの扱いが増えており、その変化に対応すべく積極的にIT投資を進めています。上図を確認してみますと、コロナ後を境に予測値より計画値が上回っていることが「企業IT動向調査2024」みてとれます。
IT/DX人材不足
※横軸:企業規模、縦軸:課題別割合 出典:企業IT動向調査2022
上記に関連して、ビジネス・産業構造の変化が急速に進んでいることにより、対応できる人材が間に合っていないのが現状です。DX推進における課題を確認してみますと、最も大きな課題として挙がるのが「人材の不足」です。全体で見てみても46.6%と半数弱の企業が大きな課題として認識されているのがみてとれます。
4. リスキリングのメリット
続いて、リスキリングのメリットについて、以下の点を解説します。
- 業務効率化につながる
- 社内でイノベーションを創出しやすくなる
- 人材不足に対して効率的に対応できる
業務効率化につながる
リスキリングの大きなメリットは、業務効率化につながる点です。リスキリングによる社内でのDXが推進されることで、全社員のITリテラシーが向上し、実務課題の発見やそれによる業務の効率化につながります。たとえば、リスキリングでデータ分析スキルを習得すれば、データの収集・分析作業を効率化・自動化でき、作業時間の大幅な短縮等につながります。
また、業務効率化の実現により、企業にとっては残業代コストの減少、従業員にとってはワークライフバランスの向上などの効果が期待できます。
社内でイノベーションを創出しやすくなる
社内で新たなアイデアや業務プロセスなどのイノベーションを創出しやすくなる点もリスキリングを行うメリットです。たとえば、新しい知識・スキルを身につけることで、既存の業務に対しても新たな発想や視点で考えられるようになります。
既存事業のマンネリ化や収益の停滞に悩んでいた企業でも、リスキリングをきっかけに新商品の企画や業務プロセスの革新を実現できる可能性があるでしょう。
人材不足の解消に対して効率的に対応できる
リスキリングをすることで、人材不足の解消に繋がるのが一番のメリットです。上図は、「企業IT動向調査2024」の人材タイプ別の人材不足の対応策をまとめたものです。「顧客向けプロダクト(サービス)企画担当」を除いて、ほぼ全ての人材タイプで「既存社員のスキルアップ」、つまりリスキリングを対応策として見ているのがわかります。
最先端の技術を持った外部人材を採用したからといって、必ずしも自社の競争力強化につながるとは限りません。自社の事業や顧客に精通した社内人材に対してリスキリングを行うほうが、学んだ知識・スキルを自社の業務プロセス改革などの成果につなげやすくなります。
日本では少子高齢化に伴い、IT人材を中心に人材不足が大きな課題となっています。経済産業省のDXレポートによると、2025年にはIT人材不足が約43万人まで拡大すると予想されています。このような状況下では、外部から高いスキルを持った人材を採用することは容易ではありません。社内の従業員に対してリスキリングを行うほうが、人材不足を効率的に解消できるでしょう。
5. リスキリングにおける課題
時間とコスト
リスキリングは、新しいスキルや知識を身につけるために時間と労力がかかります。また、トレーニングや教育プログラムの費用もかかるため、企業や個人にとって経済的な負担となる可能性があります。
補助金・助成金をリスキリングで活用し、コストを抑えることも可能です。
リスキリングに抵抗がある人への教育
実務に活きるような eラーニングコンテンツの有無、また eラーニングや座学だけで実活用スキルを獲得できるのかという課題があります。ですので受講後の「現場経験」につながるようなコンテンツの受講こそ重要と言われています。
人材の流動性
リスキリングによって、一部の職種や業務が不要になり、一部の従業員がリストラされる可能性があります。また、リスキリングにより知識が向上し市場価値が高まった社員の流出等が考えられます。ドメイン知識とスキルを持った社員の流出は教育コストの観点で大きい損失になるため、社員の定着もセットで検討していく必要があります。
6. リスキリングにおける注意点
リスキリングを実施する際は、以下の点に注意しながら進めていく必要があります。
- 企業側だけで一方的に進めないようにする
- リスキリングを目的化しないようにする
- 自社内のコンテンツやリソースだけで解決しようとしない
企業側だけで一方的に進めないようにする
リスキリングは企業が主導して行う取り組みではあるものの、企業側だけで一方的に進めないように注意が必要です。従業員からの理解を得られないままリスキリングを導入しても、期待通りの効果を得ることは難しいです。
あらかじめ従業員にリスキリングのメリットや重要性を説明し、従業員の希望に沿った学習環境やプログラムを提供していくことがポイントです。
リスキリングを目的化しないようにする
リスキリングは、企業の競争力向上を図る手段のひとつであるため、リスキリング自体を目的化しないように注意が必要です。たとえば、「用意したすべてのプログラムの受講完了」を従業員の評価指標とした場合、プログラムの受講自体が目的となってしまうリスクがあります。
その先の実務での活用までを見据えて、リスキリングを導入することが重要です。
自社内のコンテンツやリソースだけで解決しようとしない
リスキリングを行う際は、自社内のコンテンツやリソースだけで解決しようする必要はなく、効果的な学習プログラムを構成するうえでは、外部の専門会社のコンテンツなどを取り入れることも有効な手段となります。
7.導入事例
ここまででリスキリングとは何か、また導入する上でのメリットをご紹介いたしました。本章では、リスキリングをどのように進めているのか国内外の事例をご紹介していきます。
国内・国外のリスキリング事例
海外では10年ほど前からリスキリングについて議論されており、日本でも遅れてではありますが2020年を境にリスキリングへの取り組みが大企業を中心に動き出しております。
AT&T(国外) | AT & T では 2008 年の段階で IT 人材不足の現状に取り組まなくてはいけない事実を認識しており、2013 年にはリスキリングに着手。 従業員が今後、身につけるべきスキルの見直しを行い、2020 年までに 10 億ドルを投資し、10 万人のリスキリングを実施し、社内技術職の 80 %以上を社内異動によって充足。 |
Amazon(国外) | 一人当り 75 万円かけ、2025 年までに 米アマゾンの従業員 10 万人をリスキリングをすると発表。非技術系人材を技術職に移行させる仕組みや、技術系人材を更にスキルアップさせるための環境を用意。 |
ウォルマート(国外) | VR を用いて、イベントや災害対応などの疑似経験を積める環境の整備と、 小売の DX に対応できるスキルの習得を店舗従業員にできるようにバーチャル環境の整備。 |
マイクロソフト(国外) | コロナ関連による失業者 2500 万人を対象にリスキリングを無償支援。LinkedIn、GitHub とともに無償でリスキリング講座を提供。 |
富士通(国内) | 変革の為の投資として、高度人材の獲得と内部強化(リスキリング)に注力。社内 DX の更なる促進に向け、 データの徹底活用に向けたプロセスやシステム刷新によるデータドリブン経営の強化。全社員(13 万人)が DX 人材になることかつ、オフィスのあり方や働き方の見直しを図る DX 人材への進化 & 生産性の向上、DX Officer を中心に全社・部門の変革テーマへの取り組む。また、お客様と従業員の「VOICE」を収集し経営判断や施策実行をする全員参加型、エコシステム型の DX 推進を行っている。 |
日立製作所(国内) | 国内グループ企業の全社員約16万人を対象に、DX 基礎教育を実施。 |
住友商事(国内) | 1000人にAIを基礎から学ぶオンライン教育を実施。 |
三菱商事(国内) | 1000人に年次年齢問わず希望者を募り受講。 |
丸紅(国内) | 50人に技術的にもAIを扱えるように実践講座の提供。 |
8.リスキリングによる人材育成ステップ
AI/DXの人材育成においては、企業ごとに課題がわかれるためそれぞれに適した内容で実施することが必要です。
ここでは、リスキリングの実施ステップを以下の5つに分けて解説していきます。
1.人材育成計画
はじめに、自社の経営戦略や人材戦略に基づき、リスキリングの対象分野を決定していきます。対象分野を決めるうえでは、現在の従業員のスキル保有状況の棚卸しを行い、目指す状態とのギャップを明確化することが重要です。
目標と現状のギャップが明確になったら、現在不足している必須スキル・推奨スキルを定義していきます。最後に、対象分野毎のロードマップと必要な教育内容を整理し計画をたてていきます。
2.全社員向け教育
企業全体でDXを推進していくうえで全社員への教育は不可欠です。部署ごとで引っ張っていくDX推進人材を育成しつつ、全社員へのDXリテラシーを高めてボトムアップを図ることが重要です。
ただ、教育をしていくにしてもどのような定義で実施すればよいか判断に迷う事が多いため、経済産業省のデジタルスキル標準のうち、DXリテラシー標準を基準に評価をすることが増えてきています。
また、全社員にDXリテラシー教育をしていくには費用の面や受講効率を考慮してeラーニングで教育していくことがベターです。
最近では、学んで終わりではなくアセスメントを活用してスキルの定量評価を図る企業も増えてきており、DXスキルの可視化や人事考課指標として活用していたりもします。
3.DX推進人材向け教育
参考:スキルアップAIの講座マップ
本章の冒頭でお伝えしたように、全社員向けにリテラシー教育を実施するのとは別にDXを推進していく人材の教育も必要です。ドメイン知識を持っているかつ、DXを推進していくうえで自社の事業を推進していく人材は不可欠です。
この人材をドメイン知識を有している社員を教育することでDXを推進していくことが事業競争力を高めていく上で重要です。
また、企業によって事業内容は変わってくるため、ビジネスでの推進なのか、生成AI活用なのか、データ分析なのかといった適した人材を整理した上でリスキリングを進めていく必要があります。
4.伴走支援型教育
参考:スキルアップAI AI道場
全社員・DX推進スキルを学ぶ、つまりリスキリングをした後は、新たに学んだ知識・スキルを実務に活かしていくための機会を提供することが必要です。学んで終わりではなく、ビジネスへの適応をすることで初めてリスキリングとしての効果を発揮します。
たとえば、会議のなかで新たなアイデアを創造するための時間を意識的に設け、従業員からリスキリングで得た知識や発想を出し合ってもらう取り組みなどが有効です。
また、それぞれの従業員がリスキリングの前後で生じた実務上の変化を共有したり、お互いの成長点をフィードバックし合ったりすることで、社内でのリスキリングの風土醸成につながります。
5.人材育成内製化 + コミュニティ構築
参考:スキルアップAI コミュニティ構築
ビジネスへの適応をしていく上で、継続していくコミュニティ・環境構築をしていくことも重要です。部署ごとでの溜まったナレッジの共有や勉強会の実施、成功事例の横展開などをしていくことで、中長期での事業成長につなげることができます。
9.まとめ
リスキリングとは、社会や技術の変化に応じて新たな知識やスキルを学んでいく取り組みを指し、DX推進が加速していくのを背景に注目が集まっています。リスキリングを行うことで、業務効率化や新たなアイデアの創出、人材不足の解消などのメリットが期待できます。
リスキリングを行う際は、従業員の希望や意見を尊重しながら、自社に合った学習環境や教育プログラムを整備していくことが重要です。
ぜひ本記事を参考に、自社に適したリスキリングの取り組みをご検討ください。
10.サービス紹介
リスキリングを行う際は、従業員に必要なスキルや素養を洗い出しながら、自社に合った学習環境や教育プログラムを整備していくことが重要です。
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