最終更新日:
スマートファクトリーとは?中小企業における導入目的やメリットを解説


ものづくりの現場における人手不足やコスト高といった課題は深刻化しており、特に中小企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)化は喫緊の課題といえます。このような状況を打破する一手として、近年注目を集めているのが「スマートファクトリー」という概念です。
本記事では、スマートファクトリーの定義や中小企業における導入目的、具体的な導入メリットや注意点をわかりやすく解説します。
スマートファクトリーとは?
初めに、スマートファクトリーの定義や歴史、スマートファクトリー化によって可能になることについて解説します。
スマートファクトリーの定義
スマートファクトリーとは、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)、AI(人工知能)を中核としています。IoT機器から集約されるビッグデータを解析できる先端技術を導入し、工場の生産性や効率性を飛躍的に向上させる次世代型の工場、またその実現のための概念を指します。経済産業省では「スマート工場」という呼び方も使われます。

スマートファクトリー化を進めることで、生産ラインで発生する課題を可視化し、解決するための迅速な具体策を提示できます。
また従来の工場では人手に頼っていた作業や判断を機械やシステムが代替することにより、さまざまな面で品質向上、コスト削減、納期短縮などを実現し(=ものづくりのスマート化)、競争力強化に繋げることが可能になるとされています。

(出典)経済産業省:『第4次産業革命期におけるIoT・ロボット導入促進調査「ものづくりスマート化ロードマップ調査 」調査報告書』2017年3月 経済産業省 中部経済産業局 委託先:みずほ情報総研, p6
ほかにも、スマートファクトリー化によって得られる効果・メリットには以下のようなものが挙げられます。データに基づいた正確な課題把握と継続的な改善活動は、工場全体の収益性向上に役立つことが期待できます。のちほど詳しく解説します。
- 生産ラインの自動化・最適化
- リアルタイムなデータ収集・分析の実施とそれを用いた市場予測・生産計画の立案・生産工程全体の効率化
- 予知保全による設備稼働率の向上
- 柔軟な生産体制の実現
- 労働環境の改善と安全性向上、雇用の促進
(参考)国立国会図書館サーチ(電子書籍・電子雑誌)
『第4次産業革命期におけるIoT・ロボット導入促進調査「ものづくりスマート化ロードマップ調査 」調査報告書』2017年3月 経済産業省 中部経済産業局 委託先:みずほ情報総研
※注:2025年3月現在、経済産業省HP内からは削除されている
スマートファクトリーの歴史
スマートファクトリーは、2011年にドイツ政府が提唱したインダストリー4.0(第4次産業革命)の概念を具現化したものです。
インダストリー4.0の発表を契機に多くの国々が同様の構想や戦略を打ち出し、日本も2017年に「Connected Industries(コネクテッド・インダストリーズ)」という概念を発表しました。将来的に目指すとされている未来社会「Society5.0」を実現するための段階として打ち出されたものです。
2025年現在、スマートファクトリーの実現はすでに世界的な規模で拡大しており、市場での優位性を高めるためには必須の施策となっています。
(参考)経済産業省:アーキテクチャ政策
スマートファクトリーの目的
スマートファクトリー化を進める目的は以下のものが挙げられます。
①製品品質を向上させる
IoTセンサーやAIによるリアルタイムなデータ収集と分析により、製品の品質を常に監視し、不良品の発生を未然に防ぐ。生産プロセスにおける微細な変化も検知し、品質のばらつきを最小限に抑える。
②「ムダ」を削減する
データに基づいた最適な生産計画や在庫管理により、材料やエネルギーの無駄を削減。設備の稼働状況を常に把握し、故障予知や予防保全を行うことで、停止時間を最小限に抑え、生産効率を向上させる。
③生産性の向上
生産ラインの自動化や最適化により単位時間あたりの生産量を増加させる。
④在庫管理と物流への連携
リアルタイムな在庫状況の把握と需要予測により、過剰在庫や在庫不足を解消する。将来的にはサプライチェーン全体のデータを統合し、物流の最適化を図ることでリードタイム短縮やコスト削減に貢献することを目指す。
⑤リードタイムの短縮
生産計画から出荷までのプロセスをデジタル化し、各工程の進捗状況をリアルタイムに把握することで、リードタイムを短縮する。多品種少量生産や変動する需要に迅速に対応できる体制を可能にする。
⑥人材育成と技術の承継
熟練技術者のノウハウをデータ化しAIに学習させることで、若手技術者の育成を効率的に行う。
⑦新たなイノベーション創出に役立つ基盤づくり
蓄積されたデータを活用し、新しい製品やサービスの開発、ビジネスモデルの変革を促進、新たな価値を創造する。
⑧セキュリティへの対応とリスク管理
サイバー攻撃や情報漏洩のリスクを最小限に抑え、セキュリティ対策を徹底する。その他設備の故障や災害など、予期せぬ事態が発生した場合でも、迅速に対応できる体制を構築する。
一言でいえば、日本市場だけでなくグローバル市場でもニーズのある高品質な製品を生み出し、事業として成長することが目的となります。
スマートファクトリーとこれまでの工場の違い
スマートファクトリーとこれまでの工場との最も大きな違いは、「生産効率を高めるための過程にかかるさまざまなコスト(時間・費用)」と、「それを縮小するためのデジタル技術の活用度合い」といえるでしょう。
従来の工場でも、生産性向上は重要な課題でした。しかし従来の工場は、現在のデジタル技術を活用したものではなく、アナログ主体でした。例えば現場担当者が手作業でデータを集めてパソコンに手入力し、表計算ソフトで分析を行う…などといった、個人のスキルに頼った非効率な作業が行われていたのです。
当然このような方法ではスピード感は望めず、仮に課題が見つかったとしてもそれを実際に現場に落とし込むまでにさらに長い時間とコストが必要になります。
また、データ管理システムがある場合でも、従来の工場では現場ごとに複数の独立したシステムが混在しているケースが多く、データの重複や新旧データの混在が当たり前になっていました。そのような状況では、必要なデータを探すのにも時間がかかります。
正確なデータが企業の中で一元管理され、必要な時に誰でも簡単にアクセスできる仕組みがあれば、ミスやムダの発生も最小限に抑えられるでしょう。在庫管理や部品管理にもムダが発生しづらくなります。
そもそも従来の日本の工場内部は外部(インターネット)と接続していないことが多く、データも十分に活用されていませんでした。また製造そのものの工程も熟練工が長年の経験で培った「勘」に頼る部分が多く、その技術は個人に属するものであり、企業や生産現場に共有されているとは言い難い状況でした。
現在、世界のものづくり市場は先端技術を用いて飛躍的に進歩を遂げ、日々進化しています。日本のものづくりの技術はこれまで、高いレベルを誇っていましたが、それは前述のとおりあくまでも個人の知見にとどまるという課題がありました。現代のスピード感ある開発と製造の流れに乗れなければ、日本の製造業は市場で勝てず縮小せざるを得ません。
スマートファクトリーでは、IoTセンサーなどから収集した膨大なデータをAIが解析し、生産ラインの最適化や設備の故障予測などを行います。リアルタイムのデータ収集とそれに基づいた意思決定が可能になることで、将来に向けた事業計画や人員採用などに確実性の高い予測ができるようになります。
生産性向上を効率化することは生産工程の改善だけでなく、競合他社との競争力強化にもつながります。これらがスマートファクトリー導入の利点と言えるでしょう。
スマートファクトリーとDXの違い
スマートファクトリーとDX(デジタルトランスフォーメーション)は、どちらもデジタル技術を活用するという点で共通していますが、その目的と範囲が異なります。
スマートファクトリーは、デジタル技術に代表される先端技術を現場に取り入れ、工場における生産性向上や効率化を目的とした、製造業に特化した取り組みを指します。
一方、DXは企業全体でデジタル技術を導入するにとどまらず、それを用いてビジネスモデルや組織文化を変革し、競争優位性を確立することを目的としたより広範な概念です。
つまり、スマートファクトリーはDXを実現するための手段の一つと言えます。工場全体のデジタル化にとどまらず、サプライチェーン全体、顧客体験の向上、新しいビジネスモデルの創出など、より広範な変革を目指すのが製造業におけるDXです。スマートファクトリー化は、製造業におけるDX推進の重要なステップであり、企業の競争力強化に大きく貢献すると期待されています。
この概念は現在、経済産業省では「スマートマニュファクチャリング」として、日本における製造事業者がDXを推進し目指すべき姿が提示されています。スマートマニュファクチャリングを進めるためにも、まずはスマートファクトリー化、推進が必須となります。
ただし、スマートファクトリー化を進めることでインターネットを用いた外部ネットワークとの接続が必要になります。これにより、工場がサイバー攻撃を受けるリスクがあること、セキュリティ対策を入念に行わなければならないことを認識しておかなければなりません。
(参考)経済産業省:
2024年版ものづくり白書(ものづくり基盤技術振興基本法第8条に基づく年次報告)>第5章 製造業の「稼ぐ力」の向上>第2節 DXによる製造機能の全体最適と事業機会の拡大(p.201)
「工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドライン【別冊:スマート化を進める上でのポイント】」を策定しました(2024年4月4日)
スマートファクトリーの3つの実現ステップ
スマートファクトリーの実現には段階的なアプローチが必要です。ここでは経済産業省の資料をもとに、スマートファクトリー実現のための主要なステップについて解説します。

(出典)経済産業省:『第4次産業革命期におけるIoT・ロボット導入促進調査「ものづくりスマート化ロードマップ調査 」調査報告書』2017年3月 経済産業省 中部経済産業局 委託先:みずほ情報総研,p34
STEP1:スマート化の構想を策定する
①現状分析と目的・目標の明確化
まずは、自社の工場の現状を詳細に分析します。生産ラインの効率、設備の稼働状況、品質管理、在庫管理など、あらゆる側面から課題を洗い出します。
分析結果に基づき、スマートファクトリー化によって達成したい「具体的な目的・目標」を明確化し、設定します。例えば、「生産性を高めたい」「製品品質を向上させて顧客の需要を増やしたい」「コストを削減したい」「全体的なリードタイムを短縮したい」などが考えられます。
そのうえで、「どの部門・現場に何を導入し、どのような結果を出すか」を明確にします。
②社内体制の構築
目標達成に向けた具体的な計画(ロードマップ)を作成しますが、その前にこれらを中心となって担う社内体制、担当者を決定します。
構築した体制には権限をある程度与え、さまざまな部署や部門、現場と直接やり取りできるよう、また経営陣とも迅速な意思疎通ができるようにします。そのほか、人材の選定はプロジェクトの成否にかかわるため慎重に行います。
与えられた業務を行うだけでなく、プロジェクトのリーダーとして全員をまとめながら進行させられる素質をもつ人物が望ましいでしょう。
③構想の策定
目標達成に向けた具体的な計画(ロードマップ)を策定します。
どの技術を導入するか、どの部門から始めるか、どのくらいの期間で実現するかなどを明確にします。
STEP2:基盤となるシステムのトライアル導入と改善
IoT(Internet of Things)を使い生産ラインや設備に導入します。具体的には対象の機器にセンサーを取り付け、データを収集、稼働状況や品質などの情報をリアルタイムで把握できます。
また収集したデータを蓄積・管理するためのデータベースやクラウドシステムの構築も必要になります。情報を一元管理するため、生産管理システム(MES)、ERP(Enterprise Resources Planning)などのシステムを導入します。
実際にこれらを全社的に行うとなるとどれだけ資金と年月があっても挫折してしまう可能性が高いでしょう。そのため、まずは一部門、一つの現場(工場)、一つの生産ラインなどと限定してトライアルを行うことが重要です(=スモールスタート)。
STEP3:運用を開始する
導入と実証、改善を繰り返し、自社での課題が何か、どのように導入すればよりスピーディに結果が出るかを検証してシステム運用を定着させます。
一つの部門などで稼働が軌道にのれば、それを徐々に他の部門などへも拡大していきます。またこの流れの間にも、課題が見つかればすぐに対処し、改善することを繰り返していきます。
(参考用語)アジャイル開発
スマートファクトリーの課題・リスク
導入によりさまざまなメリットが期待できるスマートファクトリー化ですが、課題やリスクもあります。ここではスマートファクトリー化を進めるにあたって考えなければいけない課題やリスクについて解説します。
導入にコストがかかる
スマートファクトリー化を進めるには費用がかかります。これは避けては通れない課題であり最初の関門といえます。
経営陣の理解と、スモールステップによる着実な計画が必要になります。
デジタル化の浸透や仕組みの変更に時間がかかる
DX推進でもたびたび言われることですが、導入に着手したはいいものの、結局うまくいかず元のアナログ体制に戻ってしまうということが往々にして起こり得ます。
スマートファクトリー化は一歩ずつ地道な積み重ねで実現するものです。まずはデジタル化から着手し、徐々に社内の風土、従業員の意識、体制の変革を進めていく根気が必要です。
同時に、ある程度その利便性や効率性が浸透してきたら、スピード感を高めていくことも重要になります。
導入に必要なIT人材を獲得することが困難
導入と稼働には各担当分野の専門家が必要になります。このIT人材確保が現在、非常に困難になっています。
人材募集は継続して出しつつ、社内従業員の育成も行えるよう教育体制も同時に構築します。
せっかく応募してきて採用した人材が、社内の体制や業務のミスマッチ(この場合、新しいIT業務を行えるはずが、古いシステム運用と保守に時間を割かれてやりたいことができないなど)により、すぐにやめてしまうというケースもあるようです。
難しい問題ですが、人を定着させ育てるためには、企業そのものの風土やそこで働く従業員全員の価値観の変化も大切になります。焦らず、しかし着実に変化していくことが必要です。
既存システムと新しいシステムが連携できない可能性がある
物理的な問題で、既存システムが導入したシステムとうまく連携できないケースもあるようです。これは導入前にトライアルを繰り返し、どれくらいサポートが得られるかなどをしっかりヒアリングすることである程度リスクを抑えることができます。

スマートファクトリー導入を成功させる7つのポイント
スマートファクトリーの導入は、これまでアナログメインで運営されてきた工場の在り方を根本的に変革することになります。そのため決して容易ではなく、多くの課題を乗り越える必要があります。
スマートファクトリー導入を成功させるためのポイントには以下が挙げられます。
(1)明確な目標設定とロードマップの作成
(2)段階的な導入とスモールスタート
(3)データ活用のための情報の一元管理
(4)人材育成・人材採用とそれらを活かせる体制づくり
(5)組織文化の変革・経営者からのトップダウン
(6)外部パートナーとの連携
(7)セキュリティ対策
このうち、(1)~(3)については解説したとおりです。
(4)の人材育成については、導入ステップでも解説したように、実際に雇用したり育成したりした人材を十分に生かせる体制づくりも必要になります。
また従業員のスキルアップには教育体制も必要でしょう。導入するシステムや技術を運用するために、将来的にはデータ分析、AI運用などの教育プログラムを実施し、従業員のスキルアップを支援します。
これらを円滑に進めるために、(5)組織文化の変革、そして経営者の理解と全体への意思の浸透が必要になります。
スマートファクトリー化を成功させるためには、組織全体の意識改革が最も重要といえるかもしれません。データ活用を重視する文化や、変化に柔軟に対応できる組織体制を構築することが必須となります。このためには経営陣から現場で働く従業員まで、全員が当事者として考え、実行することが必要になります。
ただしすぐには難しいため、(6)外部パートナーとの連携を活用し、人材派遣を利用したり、コンサルティングを活用して新しい知見を得たりするなどの方法も利用するとよいでしょう。外部のコンサルティング会社やシステムインテグレーターと連携することで、専門知識を活用し、プロジェクトを円滑に進めることができます。
最後に、(7)サイバーセキュリティ対策の重要性については、特にこれまでの中小企業・工場ではなじみがなかった可能性があり、非常に高いリスクが潜んでいるため、十分に研修などを行って全体に浸透させる必要があります。
スマートファクトリーは、ネットワークに接続されたシステムであるため、サイバー攻撃のリスクがあります。セキュリティ対策を徹底し、情報漏洩やシステム停止を防がなければなりません。
セキュリティ対策は日夜進化しています。またシステム導入だけではなく、運用する従業員の知識も非常に重要です。どんなにシステムを手厚くしても、それを運用する人の意識が低ければ、簡単に情報漏洩が起こってしまいます。
一朝一夕で可能になることではないので、最初は信頼性が高く実績豊富な外部ベンダなどを頼りましょう。
このほか、経済産業省の資料などにも成功のためのポイントがまとめられているため参考にしてください。
(参考)経済産業省:『第4次産業革命期におけるIoT・ロボット導入促進調査「ものづくりスマート化ロードマップ調査 」調査報告書』2017年3月 経済産業省 中部経済産業局 委託先:みずほ情報総研,p35
まとめ
本記事では、スマートファクトリーについて解説しました。スマートファクトリーとは、IoTやAIといったデジタル技術を活用し、工場の生産性や効率性を飛躍的に向上させる次世代型の工場です。労働人口の減少や顧客ニーズの多様化など、製造業を取り巻く環境が大きく変化する中で、中小企業においてもスマートファクトリー化は急務と言えるでしょう。
スマートファクトリー化は多くのメリットをもたらします。また、熟練技術の継承や競争力強化、新たな価値創造にも貢献します。一方で、導入には明確な目標設定とロードマップの作成、段階的な導入とスモールスタート、人材育成と組織文化の変革やセキュリティ対策などが重要になります。
スマートファクトリー化は、中小企業が持続的に成長し、変化の激しい時代を生き抜くための重要な戦略といえます。本記事を参考に、スマートファクトリー化をご検討ください。
サービス紹介
スキルアップAIでは、DX推進に向けた支援サービスや、法人研修プログラムを多数ご用意しています。
今回ご紹介した内容については、「スマートファクトリー入門講座」にて対応が可能ですので、是非ご覧ください。
その他、自社の課題やニーズに合わせてサービスのご提供が可能ですので、是非下記よりご覧ください。

配信を希望される方はこちら
また、SNSでも様々なコンテンツをお届けしています。興味を持った方は是非チェックしてください♪
公開日: