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【事例6選】リスキリングの活用とは?主な事例と進め方のポイントを紹介


社会や技術が素早く変化する中で、これまで獲得してきたスキルが陳腐化してしまい、新しい業務やビジネスに対応できなくなってしまうという懸念が生まれています。このような中、企業にはリスキリングを通して自社の従業員のスキル獲得を支援し、自社の競争力を維持・向上していくことが求められています。
それでは、先進的な企業ではどのような取り組みが進められているのでしょうか。
この記事では、リスキリングについての基礎理解と各社で取り組んでいるリスキリングの事例を6つ紹介します。
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リスキリングとは
まず初めに、リスキリングという言葉の定義や、リスキリングが注目されている理由など、リスキリングの基本的な内容についてご紹介します。
リスキリングの概要
リスキリングとは「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義(※)されます。近年では、DXの潮流に代表されるようにビジネスにおいてデジタル技術を活用する「デジタル化」が進展しています。
あらゆる業界・ビジネス・仕事においてデジタル技術が活用されるようになる中で、仕事の進め方やニーズのある職種は変化していきます。これらに対応すべく、新たなスキルを習得することが求められているのです。
なぜリスキリングが注目されているのか
デジタル化された社会に対応するために、企業は業務プロセスや事業をデジタル化する必要があります。このようなDXの取り組みを行う際、もしくはDX化された後のビジネスを実行していく際には、デジタルのスキルを持った人材が必要です。
デジタル化の進展とともに、世界においては早くからリスキリングの必要性が注目されていました。日本においても、経済産業省が旗振り役となりリスキリングの取り組みが進められている状況にあります。
※ 経済産業省 デジタル時代の人材政策に関する検討会 審議会資料「リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―」p6より引用
なぜAI活用・DX推進にリスキリングが必要なのか?
前章でも引用した「リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―」のp8では、『DX時代の人材戦略=リスキリング』と表現されています。それだけ、DX推進においてリスキリングが重要視されていることがわかります。
では、なぜAI活用・DX推進にリスキリングが必要なのでしょうか?
ポイントはこちらの3点です。
- DX推進の成否は人材に依存(AI・DXを扱える人材がいないと、せっかくの投資が無駄になる)
- 企業が直面する課題(デジタルスキルの不足、社内の意識改革)
- 成功する企業の特徴(経営層のコミットメント、学習環境の整備)
総務省が2022年に行ったデジタル活用の動向に関する調査研究/a>では、「デジタル化を進めるうえでの課題や障壁」という問いに対して、日本企業は、67.5%が人材不足と回答しています。

リスキリングの進め方
AI/DXの人材育成においては、企業ごとに課題がわかれるためそれぞれに適した内容で実施することが必要です。
ここでは、リスキリングの実施ステップを以下の5つに分けています。
- 人材育成計画
- 全社員向け教育
- DX推進人材向け教育
- 伴走支援型教育
- 人材育成内製化 + コミュニティ構築
はじめに、自社の経営戦略や人材戦略に基づき、リスキリングの対象分野を決定していきます。対象分野を決めるうえでは、現在の従業員のスキル保有状況の棚卸しを行い、目指す状態とのギャップを明確化することが重要です。
企業全体でDXを推進していくうえで全社員への教育は不可欠です。部署ごとで引っ張っていくDX推進人材を育成しつつ、全社員へのDXリテラシーを高めてボトムアップを図ることが重要です。
最近では、学んで終わりではなくアセスメントを活用してスキルの定量評価を図る企業も増えてきており、DXスキルの可視化や人事考課指標として活用していたりもします。
全社員向けにリテラシー教育を実施するのとは別にDXを推進していく人材の教育も必要です。ドメイン知識を持っているかつ、DXを推進していくうえで自社の事業を推進していく人材は不可欠です。
この人材をドメイン知識を有している社員を教育することでDXを推進していくことが事業競争力を高めていく上で重要です。
全社員・DX推進スキルを学ぶ、つまりリスキリングをした後は、新たに学んだ知識・スキルを実務に活かしていくための機会を提供することが必要です。学んで終わりではなく、ビジネスへの適応をすることで初めてリスキリングとしての効果を発揮します。
ビジネスへの適応をしていく上で、継続していくコミュニティ・環境構築をしていくことも重要です。部署ごとでの溜まったナレッジの共有や勉強会の実施、成功事例の横展開などをしていくことで、中長期での事業成長につなげることができます。
上記の具体的な内容については、以下の記事で詳しく解説していますので、ご覧ください。
事例①:ソニー
電子機器メーカーであるソニーでは、同社の社員約4万人を対象にAIに関する研修を提供しています。同社では、社員のレベルに合わせて、AI活用の考え方や独学法、活用できるツールなどについてオンラインで学習できる環境を提供。社員の基本的なスキルとしてAIを活用できるようにすることで、サービスや製品品質の向上につなげることを目指しています。
参考:日本経済新聞「ソニーG、社員4万人にオンラインでAI研修」
事例②:富士通
大規模なリスキリング施策を発表して話題になったのが日本の情報通信機器メーカーである富士通です。同社では「ITカンパニー」から「DXカンパニー」を目指すことを標榜し、グループ会社も含めた全13万人のリスキリングを推進。オンライン学習プラットフォームを活用した教育機会の提供やビジネスプロデューサーの育成研修などを実施しています。
同社では、「デザイン思考」「アジャイル」「データサイエンス」の3つの分野における共通のスキルと知識をDXリテラシーとして定義し、実践的なスキル習得を可能とする講座を開発しています。制度面でも、ポスティング制度の拡充やジョブ型人事制度を導入するなど取り組みを進め、新たな価値の創出に貢献するビジネスの拡大を目指しています。
参考:富士通「価値創造に向けた人材・組織の変革」
事例③:カゴメ
食品加工業を営むカゴメでは、2021年より機械学習やデータ分析に関する研修の提供を開始。同社では、DXに関するスキルをレベル1から5まで設定し、スキルに合わせた研修プログラムを用意しています。
このようなリスキリング施策は、スマホでトマトを育てるアプリ「ベジホーム!」のローンチなど、DX推進の成果につながりつつあります。
参考:カゴメ株式会社 当社事例「DX人材の内製化を推進するオーダーメイドの研修。PX(パーソナル・トランスフォーメーション)実現へ。」
事例④:デンソーテクノ
自動車機器メーカーであるデンソーのグループ会社であるデンソーテクノでは、AI人材の育成に向けた研修制度の導入を実施しています。同社では、AIの活用が進む自動車産業において自社のスキルレベルが追い付いていないという危機感を踏まえ、E資格の取得などリスキリングを推進。当初は危機感から始めた取り組みでしたが、次第に取り組み自体に興味を持つ社員も増加し、現在では、全社員の1/3がAIについてのスキル習得に取り組んでいます。
参考:デンソーテクノ株式会社 当社記事「AIの面白さに気づかせてくれた研修プログラム 全社員のAIリテラシー底上げから、実用化フェーズへ」
事例⑤:キヤノン
キヤノン株式会社は、事業ポートフォリオの転換とDX人材の育成を目的として、リスキリングに積極的に取り組んでいます。主力事業である事務機器やデジタルカメラの市場縮小に対応し、産業機器、商業印刷、ネットワークカメラ、メディカル分野などの成長市場へのシフトを図っています。
2018年には、ソフトウェア技術者の育成を目的とした研修施設「Canon Institute of Software Technology(CIST)」を設立しました。この施設では、職種転換を希望する社員に対して3カ月から6カ月の研修を実施し、新たな部署への社内転職を支援しています。設立以来、約140人がソフトウェア開発者へと職種転換を果たしています。
さらに、2021年には「技術人材育成委員会」を通じて、473講座の研修を開催し、延べ5,973人の技術者が受講しました。また、全職種を対象としたITリテラシー向上研修(eラーニング)も実施し、1万2,047人が受講しています。
これらの取り組みにより、キヤノンは社内の非デジタル人材を新規ビジネス領域に適応させるためのスキルチェンジを推進し、DX人材の育成と事業の多角化を進めています。
事例⑥:JFEスチール株式会社
JFEスチールは、データサイエンティスト(DS)の育成を通じたDX推進に取り組んでいます。2017年から教育プログラムを開始し、2024年度末までに600人のDS育成を目指しています。
主な取り組み
- 4階層の教育体制
- 教育手法
- 成果
DS先駆者:データ分析から実用化まで担当
DS伝道者:データツールを活用し課題解決
DS活用者:データ分析を業務に活用
DS利用者:全社員向けの基礎研修
eラーニング・OJTを活用
DS伝道者:データツールを活用し課題解決
「JFE Steel Data Science Portal」で事例を共有
データ活用案件が2倍に増加
製造工程での品質向上に貢献
2020年には「JFE Digital Transformation Center」を開設し、DXの加速を図っています。

6. リスキリング施策を進める上でのポイント
リスキリング施策を進める上では、どのような点がポイントとなるのでしょうか。以下では2つのポイントを紹介します。
レベルに合わせた研修制度の準備
リスキリング施策として研修を用意する際に重要なのが、レベル別の研修制度の準備です。DXやAIに関する知識が少ない方に対しては、広く共通的な学習コンテンツを用意しつつ、ある程度のスキルを持っている方に向けては、深く専門的なコンテンツを用意します。これにより、自社従業員のスキル底上げとビジネス上の競争力となる専門性という2つの成果を挙げることにつながります。
また、まずは知識のある人を選別し研修を受けてもらうなど、段階的に学習を進める方法も有効です。選別メンバーによる成功事例は、他のメンバーの刺激や経営層へのアピールにもなり、次の層への研修にもつながりやすくなります。
長期的な育成目標の定義
短期的に従業員のスキルを向上させることは難しく、リスキリングの取り組みは息の長いものとなります。よって、ゴールとして「いつまでに」「どの分野のスキルを」「どの程度の人数が」「どのレベルまで」備えていることを目標とするかを定義しつつ、ロードマップにより段階的にどのように進めていくかを検討します。
たとえば、年度ごとに目標人数をKPIとして定義し、まず今年の目標達成に向けて取り組むような進め方も有効でしょう。
まとめ
この記事では、先進的な取り組みを行っている企業のリスキリングに関する事例について紹介しました。目まぐるしく進化していく技術をビジネスに活用していくためには、継続的にリスキリングに取り組んでいく必要があるのではないでしょうか?
当社では、リスキリングに有効となるDX/AIに関する法人向け研修プログラムを提供しております。高い専門性と経験豊富な講師陣が「実務で活用できる知識」を伝える研修は、これまで650社以上にご利用いただいております。受講者の方のレベルに応じて、初学者から高度人材にまで対応したメニューをご提供しています。
リスキリングの進め方のポイントを検討していくにあたっては、まずそれを検討していく組織や部署をつくることが大切です。「自社にあったDX組織のつくり方」というテーマで資料をご用意しておりますので、これから組織作りを始めていかれる方はこちらもぜひご覧ください。
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