Success Stories導入事例
グループ全体のデータリテラシーを底上げするために
― デジタル戦略室はどんな部署ですか?
川村様:
AIなどを含めた最新のデジタル技術についてキャッチアップし、国内外グループ全体のデジタル分野の戦略を検討するのが主な業務です。
また、ホールディングス内の各事業会社と、先進的な技術を持つ世界中のスタートアップ企業とをマッチングさせたりもしています。例えば最近だと、国内損保の事業会社である東京海上日動で、衛星写真を使って、浸水地域を特定し、保険金の支払い対象になるか否かを予測する取り組みを開始しました。日本の家庭向けの火災保険ですと、水深45センチ以上もしくは床上浸水で、洪水による保険金支払いの対象になります。
浸水地域を特定し、そこにお客様の物件所在地情報などを重ねて、こちらから能動的に、保険金請求が可能であることをお伝えしています。
― AI研修を導入しようと思った背景を教えて下さい
川村様:
グループ全社のデータリテラシーの底上げをしたかったことがあります。
デジタル技術が日々開発され、世のトレンドやユーザーのニーズがどんどん変化していく昨今、既存のビジネスモデルをやり続けているだけでは成長に限界があると感じていました。とはいえ、最新技術の導入や開発をグループ会社が急にできるようにはなりません。デジタルトランスフォーメーションの波に乗るためには、データを見て意思決定をする習慣や、新しい技術に対する体系的な知識など、その根底にある一定のデータリテラシーが必要だと思っていました。
河野様:
データリテラシーがないと、例えば協業しているベンダーとの会話の中で、データに対する基本的な概念や共通言語の内容を理解しきれません。例えば「クロスセル率を向上させましょう」と言われた時、自社のクロスセル率の現状が把握できていなかったりします。自分たちで開発するシステムの方向性や注力すべきポイントについて判断が出来なければ、案件が進まなかったり、的確なソリューションを構築できないことにも繋がります。
単発のプロジェクトなら自社内のデータサイエンティストをはじめ、一部のスペシャリストでフォローできますが、数や規模が大きくなると、カバーできる範囲に限界が生まれます。そこでデジタル戦略室として、「データ・ドリブン」という考え方で事業を推進できるように社内のあらゆる階層のビジネスパーソンに対してデータリテラシーを底上げする研修制度の策定が急務の課題でした。
― 実際にどんな研修を策定されましたか?
川村様:
社内には様々な立場で業務を推進している人がいるので、現在の業務内容やスキルセットを考慮し、弊社では現在、初級・中級・上級と3つの研修プログラムを組んでいます。
初級はデータリテラシー入門編の位置づけとして、AIやデータサイエンスの基本的な内容をグループの社員数百人に講義します。中級は実践向けの講習として、簡単なデータ分析の演習を交えながらデータの見方など学んでもらいます。
そして上級がData Science Hill Climbと呼んでいる研修で、実際に現場の課題を認識・分析できるデータサイエンティストを育てることを目標とし、250時間を超えるカリキュラムを組んでおりますが、スキルアップAIさんにはその一翼を担って頂いております。この研修は、現在20人ほどが受講しています。
寄り添い進めてくれる姿勢に安心
― 導入する研修の内容はどうやって決めましたか?
川村様:
最初は動画のオンライン講座等も検討をしました。しかし、動画教材の提供だけだとやり切れる人が少ないと思いました。また、インタラクティブな学びでなければ定着率も悪いと思ったんです。そこで、動画のオンライン講座ではなくface to faceで研修してもらえるプログラムを探すことにしました。
AIの研修を実施してくれる会社をいくつかピックアップし、実際に自分たちが感じている課題感や研修内容についてお話ししてみて、その中でもスキルアップAIさんの研修はフィットしそうだと思ったので、導入前に一度、デジタル戦略室のメンバーでトライアルとして実際の研修を受講することにしました。思った通りのものか、実際に受けてみるのが早いと思ったのです。
― トライアルの講義はどうでしたか?
河野様:
教えていただく内容がわかりやすかったのが印象的でしたね。ただ知識をインプットしてくれるだけでなく、仕事での知識の活かし方まで確認しながら進めてもらえるのも良かったです。例えば、数学の授業中、ただ解き方を教わるのではなく、実際にその計算方法が機械学習のどんな場面で使われる可能性があるのかまでセットで教えてもらえました。専門知識がある我々からすれば、ただの数学の授業では退屈ですが、知識の活かし方も合わせて教えてもらえることで、新しい発見をしながら飽きずに講義を受けられました。
また、講師がどんな質問にも答えてくれることも好印象でした。専門性の高い質問で、講師のカバー範囲から脱線してしまっても、後日調べてくれて、「あの時の質問だけど…」と教えてくれるのも良かったですね。最終的には、ただ雛形に沿った教え方をするだけでなく、こっちの課題感に寄り添って、伴走してくれる態度を見て、ここなら大丈夫だなと思い、全社研修への導入を決めました。
ベンダーと同じ目線に立てるように
― 研修を策定する上で注意したポイントはなんですか?
川村様:
受講者のスケジュールをかなり先までおさえるので、スケジュール調整の負担は各部署の上司にお願いしました。受講者の出席率を重視していたので、直前になって受講者が研修をキャンセルしないようにするためです。
Data Science Hill Climbは、必修フェーズとアドバンスドフェーズに分けています。必修フェーズを受けた後、選抜して半分くらいがアドバンスドフェーズを受講する予定です。出席率が悪い受講者は、アドバンスドフェーズを受けられません。ただ漫然と講義を聞いて終わりにして欲しくはないので、この仕組みにしました。研修の設計をする際には、受講者が研修を受けるモチベーションを感じてくれるよう意識しています。学ぶときに一番大事なのは、内発的な動機だと思っており、それがないと、どんな研修でも学びの効率は落ちてしまいますからね。
― 受講者の評判はどうですか?
川村様:
講師の教え方が好評です。講義の中でテストや演習がありますが、全員が必要な水準をクリアしています。受講生の中には「普段一緒に仕事をしているベンダーさんと同じようにデータ分析をしたり、課題を解けるようになり、彼らの気持ちがよくわかった」と話してくれる人もいました。実際にベンダーさんとプロジェクトを進める上で共通認識をもとにスムーズにコミュニケーションが取れるようになっているのだそうです。
また、今まで理解できなった話が理解できるようになったという声も聞いています。どこから手をつけていいのかわからない、データを見るポイントがわからない、少なくともそんな状況からは脱していると思いますね。
ただ、実際に効果が出るのはもっと先だと思っています。今回の研修はグループ会社社員のデータリテラシーが上がるまでの、種まき的な部分があるので、即効性は求めていません。
― AIスキルがある人の中途採用はしていますか?
河野様:
はい。しかし、データサイエンティストは市場に多くいないので、中途採用だけだと、どうしても人が増えないんです。私たちも多くの方と面接させて頂いていますが、会社のニーズにマッチする人は、なかなかいないんです。
また、いくらスキルがあったとしても会社のビジョン・文化・価値観に共感できていなければ一緒に働くのは難しいと思っています。中途採用はしつつも、社内でのデータサイエンティスト育成を同時にやる必要があると感じています。
自社に留まらず日本全体でデジタルトランスフォーメーションを加速させていきたい
― 最後に今後の展望を聞かせてください
川村様:
初級・中級・上級の3つの研修プログラムは全て今年度から始まったばかりで、まだ全部荒削りな部分があります。まずはプログラムをしっかりやりきるのが目標の一つです。データサイエンティストをもっと育てて、社内にデータの大切さを根付かせたいですね。
河野様:
内発的なモチベーションの高い人間が多いので、まずはしっかりと彼らの後押しをすることが大事だと思っています。一方で、東京海上はキャリアパスをすごく大事にする会社なので、アクチュアリー(保険数理士。保険の適正な掛け金や支払い金などを決める人)のような一目を置かれる社内資格化など、新しいキャリアパスやインセンティブとしても検討しています。
川村様:
Data Science Hill Climbの研修プログラムは今年度は社内向けですが、来年度以降は弊社と取引のある会社に開放することも視野に入れています。お互いに協力し、切磋琢磨することで、オープンイノベーションを促進し、日本全体でデジタルトランスフォーメーションを加速させていきたいと思っております。
(お話を伺った方)
(左)河野 信輝様:事業戦略部 デジタル戦略室 アシスタントマネージャー(データサイエンティスト)
(右)川村雅之様: 事業戦略部 デジタル戦略室 アシスタントマネージャー(データサイエンティスト)
※お2人のお話を元にインタビューをまとめました
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